インフラ・クラウド

クラウドに移行すべき時と、すべきでない時

クラウドに関する記事の多くは「移行すべき」で終わります。この記事は違います。移行した結果、費用が二倍になり、速度は変わらなかったシステムも実在します。

間違った問いと、正しい問い

間違った問いは「クラウドは物理サーバーより優れているか」です。正しい問いは「自社の負荷は変動するのか、どの程度変動するのか」です。

クラウドは使った分だけ課金します。物理サーバーは買った分だけ課金します。負荷が一日中ほぼ一定で容量の60%を使い続けているなら、使わない伸縮性に対して料金を払っていることになります。逆に負荷が一日のうち4時間に集中し、残り20時間は遊んでいるなら、物理ハードウェアはピークに合わせて購入し、その大半を無駄にすることになります。

移行すべき4つのケース

1. 負荷の変動が大きく、かつ予測できる

セール期間中のECサイト、出願受付期間中の入試システム、四半期決算期の会計ソフト。こうしたシステムはピーク時に通常の5倍から20倍に達します。ピークに合わせてハードウェアを購入するということは、一年の大半を遊休設備に払うということです。

2. どこまで大きくなるか分からない

利用者が100人になるのか10万人になるのか見当がつかない新規プロダクト。クラウドなら小さく始めて実績に合わせて拡張できます。この段階でハードウェアの選択を誤ると、その費用は戻ってきません。

3. 複数の地域に拠点が必要

日本、米国、ベトナムの顧客をハノイの一台のサーバーで賄う場合、米国からの往復遅延は200ミリ秒を超えます。三つの大陸に物理インフラを構築するのは大企業の課題です。クラウドであれば設定変更で済みます。

4. インフラ専任者がいない少人数チーム

物理サーバーには、故障したディスクを交換し、セキュリティパッチを適用し、サーバールームの温度を監視し、停電に対応する人が必要です。社内にその役割を担う人がいないのであれば、本当のコストはホスティング料金ではなく、深夜2時に障害が起きたときのリスクです。

物理サーバーに留まるべき3つのケース

1. 負荷が安定していて把握できている

従業員200名が朝8時から夕方6時まで使う社内システムで、負荷が年間を通じてほとんど変わらない場合。ここでは物理サーバーがコスト面で明確に有利です。同等構成で比較すると、36か月のクラウド費用は、ハードウェア購入・コロケーション・保守の合計に対して通常1.8倍から2.5倍になります。

2. データの国内保管が法的に必要

業種によってはデータを国内に保管することが求められます。国内クラウド事業者でも対応できますが、選択肢は限られ、価格も海外大手ほど魅力的ではないのが実情です。

3. 外向きのデータ転送量が大きい

最も多いコストの落とし穴です。大手クラウド事業者は入ってくるデータには課金しないことが多い一方、出ていくデータには課金します。動画配信、高解像度画像のライブラリ、大容量ファイルのダウンロードでは、帯域費用が計算資源の費用を上回ることがあります。最初の請求書が来てからではなく、契約前に見積もってください。

正しいコスト比較の方法

公平な比較は36か月で行い、以下の項目をすべて含めます。月額料金をハードウェア価格で割っただけの比較をよく見かけますが、その結論はほぼ確実に誤りです。

項目物理サーバークラウド
ハードウェア初期一括、3〜5年で償却月額料金に含まれる
ラック・電源・空調月額のコロケーション費含まれる
外向き帯域通常は定額GB単価、見積もりを誤りやすい
バックアップと復旧自前で構築提供あり、別課金
運用要員待機できる人が必要大幅に削減できる
ハードウェア故障停止時間と交換費用事業者が吸収
増強発注して納品を待つ数分

覚えておく価値のある数字

負荷が安定したシステムでは、クラウドと物理の損益分岐点はおおむね18か月目から24か月目の間にあります。そのシステムが一定負荷で3年以上稼働すると確信できるなら、計算は物理ハードウェアに有利です。何も確信が持てないのであれば、クラウドは「後から考えを変える権利」を買うことになります。

見落とされがちなハイブリッドという選択肢

全部か無かを選ぶ必要はありません。よく機能する構成は、安定したベースラインを物理サーバーに置き、ピークをクラウドに吸収させるやり方です。主データベースはハノイの実機で稼働させ、アクセスが増えたときにWebサーバーだけクラウドで増やします。構成は複雑になりますが、成熟したシステムでは最も良いコスト構造になることが多いです。

移行時によくある失敗

  • そのまま持ち上げて載せ替える。 アーキテクチャを変えずに仮想マシンをサーバールームからクラウドへ移すのは、置き場所を変えただけです。伸縮性は得られないまま、クラウドの価格を払うことになります。
  • コストアラートを設定しない。 コードのループが一つ暴走すれば、一晩で高額な請求が発生します。初日に予算アラートを有効にしてください。
  • 出ていくときの費用を忘れる。 他社に移るためにデータを全部引き出すと高額になることがあります。特定のエコシステムに固定される前に検討してください。
  • 一度に全部移行する。 構成要素ごとに移し、旧環境を止める前に並行稼働させてください。時間はかかりますが、誰も徹夜せずに済みます。

まず何から

事業者の比較を始める前に、三つの問いに答えてください。一年を通じて負荷はどう変動するか、このシステムはあと何年動かすのか、1時間の停止は事業にいくらの損害を与えるのか。答えを決めるのはこの三つの数字であって、事業者の機能一覧ではありません。

TRIUNITECH
TRIUNITECH エンジニアリングチーム

インフラ構築とソフトウェア開発の実務経験に基づいて執筆しています。スポンサーや製品の宣伝は含みません。

← 記事一覧 お問い合わせ →

同じ課題をお持ちですか

メールまたはお電話でご連絡ください。営業時間内24時間以内に回答します。

お問い合わせ